NHK出版新書「超巨大地震に迫る」(大木聖子、纐纈一起共著)は、書き出しで「ドキュメント3.11」として、3月11日14時46分の、東大地震研での被災体験をレポートとしています。「これは想定されていた宮城県沖地震なのだろうか」と自問しながら、気象庁発表のマグニチュードが、7.9から8.4、そして8.8になった(最終的には9.0に)時点で、「超巨大地震だ」と捉え、「日本列島で何がおきているのか」と追求してきた、と述べています。
「本書が地震というものを理解するのを助けることで、日本人が地震を正しく恐れられるようになることを切に願う。奪われた多くの命、たくさんの被災者の大切な想い出や故郷への想い、それらを地震の科学に携わる者として守ることができなかった無念を込めて本書を綴っていきたい」と述べ、「あとがきにかえて」では「本書の印税はすべてあしなが育英会の震災遺児に寄付したい」と書いています。
「地震とは断層運動のこと」であり、それを引き起こす力は「厚さ100km程度以下の岩盤パーツ(プレート)20個程度が地殻表面を覆い、海洋プレートと大陸プレートが押し合う」ことで生じ、「その境界面でひずみを溜めた部分(固着部分、アスペリティ)で断層が起きるのが地震」と明快に説明します。
マグニチュード9.0、今回の東北地方太平洋沖地震の断層面積は、南北480km、東西150km、平均すべり量約10m。この大規模な海底の変形(もぐり込んだ海洋プレートの上の大陸プレート境界は断層により隆起し、それより陸側は引き伸ばされて沈降)が巨大津波を起こしたと言います。
大津波警報は3m以上で発令され、地震発生後2~3分で発表される。東北地方沿岸に大津波が到達したのは、地震発生後20分~40分後だったから、避難する時間がまったくなかったわけではない。今回10m以上の巨大津波だったのに、「3mなら大丈夫」と考えて流された人が多い、として「今回のあまりに甚大な被害が悔やまれる」と述べています。
この著書では、「想定外」の地震、津波と言われることについて、考察しています。「日本地震学会地震予知検討委員会編「地震予知の科学」があまりに楽観的で、その全国地震動予測地図には、東北地方太平洋沖地震の場所も規模もまったく「想定外」で載っていない。869年、平安時代の貞願地震が取り沙汰されるけれども、堆積物調査からマグニチュード8.4とされており、9.0には遠く及ばない。「想定外」となったのは、「アスペリティモデルが、不思議な現象に対する一応の説明、あるいは言い換えを与えたため、研究者にある種の思考停止を招いた可能性がある」と述べています。
西日本大震災について言及し、東海、東南海、南海三連動地震はマグニチュード9.0、東日本大震災と同規模を予測しています。さらに、震源域が南海トラフに沿って日向灘のほうに拡大したり、伊豆半島を越えて相模湾へ飛び火する可能性が全くない、と言うことは出来なくなっている、と述べています。最終章「シミュレーション西日本大震災」で詳しく展開していますが、それも従来評価に基づくもので、1707年10月28日江戸時代の宝永地震のような、マグニチュード9.0以上の超巨大地震の評価はまだできていない、と述べています。
本書は、東日本大震災への反省を込めた科学啓蒙書であり、著者(大木氏)は、東大地震研広報アウトリサーチ室助教授を務め、防災教育に係わっています。著者の誠実さに深く感動を覚えた本でした。
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