NHK[保守・二大潮流の系譜」は、吉田茂と岸信介との確執・政争を描いて興味深いが、保守陣営の内部抗争によって、戦後政治を振り返ると、一面性を免れないことを指摘しなければなりません。
番組は、田原総一郎・御厨真をコメンテーターに、戦後史を展開。吉田茂を、防衛費を増やさず国民生活優先の政治を行った、としていますが、警察予備隊から自衛隊創設に至る、憲法九条違反路線へと、アメリカの要請で政策転換したのは吉田茂首相ではなかったでしょうか。
一方、戦犯解除後政界復帰を果たした岸信介は、ポツダム宣言実施のための連合国占領政策を敵視し戦前政治への回帰を目指し、1955年保守合同を実現。首相となった岸は、戦前治安維持法に酷似した警職法成立を目指すも失敗。1951年サンフランシスコ平和条約と同時に結んだ日米安保を「不平等条約」として対米交渉し、改定案を1960年6月衆院強行採決しました。
番組で、岸は「民主主義は、国民がリーダーの2,3歩後を歩くもの」とする特異な考えの持ち主との証言があり、主権者国民の怒りに支持率20数%となって、遂に退陣に追い込まれました。これは歴史的事件であり、その後の自民党政権は、憲法改定後回し、経済優先政治に転換し、岸信介を落胆させた、と番組は言っています。
このあたりは、岸信介の孫、安倍晋三首相の今回の戦争法強行採決に瓜二つではないでしょうか。「憲法改定・自主憲法制定」を企みつつ、今回、解釈改憲を極大化し憲法を破壊する安保法制(戦争法案)を衆院に提出し、自民・公明・次世代による強行採決を行った。しかし、強行採決後、安倍内閣支持率は急降下し、不支持率が上回っています。
戦前の東条内閣の商工大臣として「満州国経営」(日本による中国侵略・植民地経営)を遂行した戦犯である、岸信介祖父を尊崇する、安倍晋三首相にとって、日本を再び「戦争をする国」にすることこそが彼自身の強い思いではないのでしょうか。彼が言う「戦後レジームからの脱却」をそのように捉えると、「歴史修正主義」と批判される特異な歴史観、また、国民の批判に耳を貸さず、一方的に自説を繰り返す、稚拙な態度の、よって来たるところが明らかとなります。
今、戦後政治を振り返り、現時点の歴史的位置を確認し、将来の方向を見定めるときではないでしょうか。
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