新型コロナウイルスが人間社会に大きな被害を与えています。パンデミック(感染爆発)が繰り返され、感染拡大が収まる兆しがありません。今後どういう状況になるか、見通しも立たず不安が増大しています。そもそも感染症は、医療技術だけで対応・解決できるものではありません。感染予防・公衆衛生と云う、社会的・政治的な取組が必須であり、感染症の影響は社会を変えることさえあります。集団免疫を持った社会となることは、社会的・政治的に新しい段階に飛躍することでもあります。
山本太郎長崎大学熱帯医学研究所教授著「感染症と文明ーー共生への道」(岩波新書)は、人類の歴史から問題を提起しています。麻疹(はしか)が紀元前3千年前メソポタミアで流行して5000年後の20世紀半ばには「小児の感染症」となり、天然痘、百日咳、猩紅熱なども抗生物質により重症化が抑えられてきたが、病原体を根絶することはできない。『根絶ではなく、共生しかない』のが人類と感染症の関係である、と山本教授は説きます。
アフリカに誕生した人類祖先(食物連鎖の最上位)の捕食から大型動物絶滅を防いだのは、「アフリカ眠り病」(アフリカ・トリパノソーマ原虫による人獣共通感染症)だった可能性がある、と指摘します。そして農耕定住生活が食糧増産・人口増をもたらすと同時に、野生動物の家畜化でヒトを宿主とする感染症が増大した、と云います。
ペスト(黒死病)は中国に起源があり、シルクロードの交易によって西欧世界をも襲い、東ローマ(ビザンティン)帝国はペストによる人口減少で衰退し、紀元6世紀にはイスラム帝国が興隆。中国においても、7世紀初め隋王朝の崩壊の一因は、ペスト流行による人口減。その後、中国とヨーロッパで人口増加が起こったのは疫学的平衡が成立したことを示す。
13世紀後半のモンゴル帝国最盛期には、ペスト再流行がユーラシア大陸全体を覆い、荘園労働者が減少し賃金が上昇し、中世の封建的身分制度を崩壊させ、イタリアでルネサンス(文化的復興)を迎え、ヨーロッパは強力な国家形成を促し、中世を終わらせた。
山本教授著「感染症と文明」は、新世界(アメリカ大陸)を征服する旧世界(ヨーロッパ)の感染症、暗黒大陸と呼ばれ恐れられたアフリカの感染症(眠り病)のような「風土病」と「感染症」の関係など興味あるテーマが語られます。これを読み込み、感染症と文明の関係を掴むことが、パンデミックを終息させ、社会の変革をつくり上げる上で欠かせないと思います。
最近のコメント