保母武彦島根大名誉教授の前衛論文「『地方創生』への対処試論」は示唆に富んでいます。「地方創生は地方再生ではない」と、石破茂地方創生担当大臣が2015年1月経団連榊原会長との会談で語ったこと、及び同年同月、日本商工会議所三村会頭との懇談で「地方創生の取り組みは、明治以来連綿として作ってきた国家の形を変えるもの」との石破発言をとらえ、地方創生の真の狙いは統治構造の改編にある、と鋭く指摘します。
地方創生で、努力した自治体としないところを一緒にすれば「国全体がつぶれる」として「役立たない」自治体を選別・淘汰しようとしている、と告発しています。全国の自治体に「地方総合戦略」を策定させ、それを「地方創生本部」が判断して交付金を出す。「創生本部」お勧めの政策パッケージが示され、人事でも、「市町村長補佐役」として国家公務員などを送り込む「地方創生人材支援制度」を新設するなど、地方自治への国家介入が際立っている、と厳しく批判しています。
東日本大震災の復興事業が「集中復興期間」(2011~2015)を終え、「復興・創生機関」(2016~2020)に入ったとしていますが、「行政主体は市町村が基本」と云いながら「上位下達」により推進、「復興に地域のニーズ優先」と云いながら「地域外から『創造的復興』の押し付け」「特区指定」で規制緩和・企業誘致の促進、医療、農業等に外資系多国籍企業進出など、平時には行えなかった実験を遂行し、その結果を政策手段として、地方創生のモデルとなることを目指す」としている、と警告しています。
保母論文は「地方創生」批判に留まらず、それに対置する社会の将来像に言及しています。どのようにしたら、人々が将来への希望をもって幸せに暮らしていける社会がつくられるのかとして、島根県隠岐島、海士(あま)町で、行き過ぎた資本主義の限界から「みんながハッピーになる新しい仕事づくり」の実践が始まっている例、住民参加で創意を生かした小規模自治体が、人口減少対策で成果を上げてきた、として、北海道東川町、福島県大玉村、長野県原村、同県下條村、岡山県奈義町が例示されています。
さらに、高知県大月町(人口6000人以下)で、かつての漁村集落ごとの「区」と称する行政区が25あり、そこで高齢者が支えられている。島根県邑南町では、農村共同体組織の相互扶助機能が、定住希望者を支援し、合計特殊出生率2.2となり「日本一子育て村」へと前進している例、平成大合併で生まれた島根県雲南市(人口3.85万人)で、かつての「海潮村」が昭和の合併で、大東町に編入されたが「海潮地区振興会」をつくり、平成大合併でも、地域自主組織として今日に生かされている例を挙げています。
これを、市や町レベルの地方自治体と単位集落との「中二階的自治組織」と称し、「地方創生」への対抗軸として「重層的自治」を提案しています。さらに、東日本大震災と福島原発事故による「安全神話の崩壊」と「成長神話の崩壊」、及び、東京など大都市圏内部で進んできた格差と貧困の広がりで、「ひとの流れ」の変化「田園回帰」が始まっている、と指摘しています。
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