7月7日国土交通省は、地球温暖化で大水害の危険が高まっているとして、流域全体で水害を軽減させる「流域治水」へと政策転換を打ち出し、8月7日には岡山河川事務所主催で、高梁川、旭川、吉井川三川の「流域治水プロジェクト」策定に向け、各自治体担当者、企業などによるウエブ会議を開催しました。なお、岡山県では、水防法に基づき水系毎に流域自治体・企業等で組織する「大規模氾濫時の減災協議会」をそのまま「流域治水プロジェクト」に横滑りさせ、2020年度末までに策定する、としています。
これまでの治水は、洪水等を堤防やダムによって防止する取組でした。しかし、高堤防の中に囲い込む濁流水量は、一旦越水・破堤すれば激甚災害を起こします。降雨量及び流出係数により河川流量は決まります。しかし、大気循環の中で、降雨量は一定せず偏移が激しく、人間による地表面改変が、堤防で区分された河川と道路・宅地拡大により、それぞれ流出係数を極大化していきます。
大気中と地表(陸と海)の水の循環ーー雲・雨、風・降水、陸水の定常状態が壊され、偏移が極大化します。何十年に一度の「計画高水流量」を想定して築造された堤防も、極大偏移で発生した高水位の濁流に破壊され、治水計画の破綻が繰り返されてきました。
コンクリート擁壁で河川を堰き止めたダムは、治水容量という空き部分に豪雨時一時貯水し下流域を助けるものです。しかし、発電や都市用水に水利権を売って造る「多目的ダム」が多数で、治水容量確保のための事前放流については、タイミングと放流量は水圏の偏移拡大の中で、予測は極めて困難です。堤防と同じで、ダムも新設で貯水始めの場合のみ治水ダムとして機能すると言えるだけです。
堤防もダムも真の治水施設にならず、水害激甚化に繋がる面が現出し、被災者から堤防、ダム災害の裁判が起こされています。では真の治水とは何か。高堤防・ダム方式は、明治中期の河川法制定から始まりました。それ以前の伝統的堤防技術ーー河道固定・流量安定に配慮、洪水弱体化策、しかし大洪水は氾濫許す「低水工事」で、遊水池、分流路開削・干拓田開発ーー水と緑と土の有機的関係を生かし保つ、日本の自然と共生する農業社会を築きました。
明治の「殖産興業」日本資本主義の興隆は、地租改正で貧乏農民から借金のカタに農地を収奪した、金持ち不在地主が産業資本家となって、「高水工事」で水没しない広い土地を手に入れました。大正年間高梁川大改修による旧東高梁川廃川地に、大原家がクラレ株式会社を建設したのがその例です。敗戦後の昭和30年代から、東高梁川河口部の水島灘及び、高梁川河口部の児島・水島・玉島地区を埋立地に、鉄鋼石油コンビナートを誘致し、原料輸入・製品輸出で高度成長した独占資本は、大気汚染と都市化をもたらし、農地の宅地転換を急速化すると共に、後背地の住宅地として開発された真備町で2018年激甚水害が発生。資本主義は、海も川も自分に都合良く使いながら、大気汚染公害、遠い住宅で水害被災など、住民犠牲を押付けています。
欧州連合では、「水枠組み指令」と称する「統合的流域管理」が進められ、生物多様性、余暇、洪水調整、景観形成を支える河川の自然状態と機能を回復させることを目的に、オーストリアに広大な「ドナウ氾濫原国立公園」を設置しています。また「洪水指令」では、氾濫原が持つ洪水調整能力を活性化させる「河川再生手法」ーー生態系か治水か、の対立を和解する統合戦略を打ち出しています。日本でも、2014年水循環基本法が成立し、日本で初めて流域政策を規定した法律だが、理念法に留まっており、「流域治水プロジェクト」の前進の中で「自然との共生」を明確にした、本格的な「水基本法」へと発展させましょう。
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